高等教育の現状及び課題について分析

現状・課題分析

1-1.人口動態から見た千葉市の「強み」と「弱み」

 ちば産学官連携プラットフォームが活動する「特定地域」に該当する千葉市及びその周辺地域について、特に千葉市の現状と課題を確認する。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計(2015年国勢調査ベース)に基づき、千葉市の人口の推移を確認すると、2015年時点では971,882人であるが、2020年の982,165人をピークに人口減少が始まる。そして30年後の2045年には905,240人となることが予測されている。(図1)

 図1.千葉市の将来人口推計

 出所:国立社会保障・人口問題研究所『将来人口推計』

 また千葉県全体の人口との比率をみると、2015年時点で15.62%であるのに対し、2045年には16.57%と、1%程度ではあるが比率は増加する。これは千葉県内全体の人口減少のスピードに比べ、千葉市の人口減少のスピードがスローペースであることともに、千葉市が、いわゆる「人口ダム」機能を果たして、千葉県人口の減少、人口流出を留める効果を果たしていることが理由として挙げられる。

 千葉市が「人口ダム」機能を果たしていることは、2015年の国勢調査結果からも把握することができる。2015年の国勢調査結果から、千葉市への転入者の約41%は県内からの転入者で、かつ、そのうちの約46.5%が千葉市の近隣自治体からの転入者であることがわかっている。ここから千葉市と千葉県内の自治体、千葉市の近隣自治体との「人口」を通じての結びつきは非常に強いという特徴が見て取れる。千葉市も2015年度末に策定した「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の中で、同様の認識を持ちながら、市の総合戦略の施策事業を推進している。

 千葉市と近隣自治体との結びつきの強さは、通勤・通学の状況からも見て取ることができる。2015年の国勢調査結果に基づき、居住地と通勤先、通学先との関係を整理すると、表1となる。「千葉都民」という言葉からは、千葉市は東京都内に通勤・通学している者の割合が多いような印象を与えるが、実際に千葉市から東京23区に通勤・通学している者の割合は、千葉市の全ての通勤・通学している者のうちの19.61%である。千葉市においては、54.86%の者が市内に通勤・通学をしている。また、千葉市の近隣自治体から千葉市に通勤・通学をしている者の割合は、四街道市で28.43%と高く、市原市で16.63%、東金市で13.05%と続く。一方、京成線を利用して直接、都心に通勤・通学ができる佐倉市や八千代市から千葉市に通勤・通学する者の割合は、各市の全ての通勤・通学者のうち10%未満であることがわかる。

表1. 15歳以上就業者・通学者の居住地と通勤・通学先

出所:総務省『平成27年度国勢調査結果』

 表2は、15歳以上の通学をしている者の割合のみを整理している。表2の結果は、表1とほぼ同様の傾向であると言えるが、佐倉市、八千代市から千葉市に通学をしている者の割合は、表1とは異なり、10%を上回っていることがわかる。

表2. 15歳以上通学者の居住地と通学先

出所:総務省『平成27年度国勢調査結果』

 千葉市内にある千葉駅、蘇我駅は総武本線、内房線、外房線、京葉線などの路線の「ターミナル」となっている。また海浜幕張駅周辺は、首都圏の「幕張新都心」構想に基づき開発が進められてきた経緯があり、人口を集積させる拠点としての機能を持つ。

 これまで見てきたように、千葉市は近隣自治体との結びつきが強く、また交通アクセス・立地条件からも千葉県内の「人口ダム」機能を果たし、千葉市を中心とした生活圏・経済圏を形成する拠点都市としての条件を満たしていることが千葉市の人口動態面での大きな「強み」であると言える。この中で、千葉市内には12大学・短期大学 が集積・集中をしており、千葉市の生活圏・経済圏を形成していく上で、高等教育機関が役割も大きく、また期待も高い。(千葉市の「千葉市・大学連絡会議」には、市原市の帝京平成大学、習志野市の千葉工業大学も参画をしている。)

 一方、世代別人口コーホート分析を行うと、千葉市の人口側面における課題(弱み)の輪郭も見えてくる。図2では2010年の国勢調査と2015年の国勢調査の結果に基づき、5歳ごとの人口をコーホートの単位とし、コーホート単位での人口変化率を表している。

 まず、2010年時点で15歳から19歳の年齢の者が2015年時点で20歳から24歳の年齢になる世代では、人口が大きく増加していることが特徴的である。(112.88%)。この時期の人口変化の主な要因として考えられるのは、一般的には大学進学と就職(高校卒業後の就職)である。千葉市内には、2010年から2015年当時、11大学・短大が集積していることから、高等教育機関の集積が人口増加に及ぼしている影響は大きいと考えられる。一方、2010年時点で20歳から24歳の世代の年齢の者が2015年時点で25歳から29歳の年齢になる世代では、人口がわずかながら減少している。(99.68%)。この時期の人口変化の主な要因として考えられるのは、一般的には就職(大学卒業後の就職)である。就職時に千葉市から他の市区町村に人口が流出をしている状況が見て取れる。(流出超過)。つまり、千葉市内の高等教育機関は、入学時に人口を増加させる効果を持つものの、卒業時に人口を千葉市に留め置く効果はやや弱いことがわかる。

図2. 千葉市における人口コーホート分析

出所:総務省「平成22年国勢調査結果」、「平成27年国勢調査結果」に基づき、算出

図3. 千葉市の15歳から30歳までの各歳別の人口動態

出所:千葉市「住民基本台帳人口」に基づき、算出

 さらに千葉市の「住民基本台帳人口」に基づき、15歳から30歳までの各歳別の人口動態を見ると、24歳以上で人口減少する傾向が見て取れる。この点から、若者の定住に課題があると考えられる。(図3)

ここまで見てきたからわかることは、千葉市を特定地域として産学官連携の地域プラットフォームを形成し、千葉市内の複数の高等教育機関が連携するとともに、千葉市、千葉市内の産業界と協働、共創を進めることは、千葉市の「強み」を高めていくためにも、課題(弱み)に対応し、それを解決していくためにも必要であり、それに対して、高等教育機関が果たす役割と期待も大きいということである。

 また千葉県内において千葉市のプレゼンスが高いことは、千葉市における産学官連携の地域プラットフォームの取り組みを通じて、千葉市から千葉県全体にも、取り組みの効果を波及させることが可能であることを意味する。この点でも、千葉市における産学官連携の地域プラットフォームの取り組みを推進していくことは大きな意味を持つ。

1-2.千葉市の18歳人口の将来予測と高等教育機関の課題と戦略

(1)千葉市の18歳人口の将来予測

 千葉市の18歳人口の将来推計について確認する。図4の18歳人口推計では、2018年までの「18歳人口数」が実績値、2019年以降の「18歳人口数」が推計値である。

図4.千葉市における18歳人口の将来推計

出所:千葉市

 2018年時点での千葉市の18歳人口は、9,577人である。2019年に9,831人となり、2020年以降、減少期に入る。2020年から2031年までまでの18歳人口の減少の傾向は、前年に比して、人口が増加する年もあり、趨勢的には人口減少は進んでいくものの、増減を繰り返す点が特徴的である。そして2031年以降は、2031年時点の8,639人から前年に比して18歳人口が増加する年はなく、平均4%のペースで減少をしていく。その結果、2040年の18歳人口は6,005人となる。

 なお、千葉市の18歳人口の「社会増減」の状況について、2013年から2017年まで5年間の実績値に基づき算出すると、各年の6月末時点における18歳人口の平均前年増減比は1.03であり、若干の転入超過となった。この結果を踏まえ、本分析では、千葉市の18歳人口に対する転出入の影響は少ないものと仮定する 。(ただし、(1)誕生月を考慮していないこと、(2)千葉市内に在住したまま、他市区町村に所在する大学・短期大学に通学していることを考えると、大学進学者、就職者と統計上の18歳人口には乖離があり、この点が本分析の課題である。)

(2)千葉市内高等教育機関のこれまでの経緯

 2018年4月現在、千葉市内には、国立大学1校(千葉大学)、県立大学1校(千葉県立保健医療大学)、私立大学・短期大学11校(植草学園大学、植草学園短期大学、神田外語大学、敬愛大学、淑徳大学、千葉経済大学、千葉経済大学短期大学部、東京情報大学、東都医療大学(2018年4月に幕張キャンパスを開設)、千葉明徳短期大学、放送大学)の計13大学・短期大学のキャンパスが所在している。

 千葉市は、千葉市内にキャンパスが所在する大学に加え、市原市に所在する帝京平成大学、習志野市にある千葉工業大学が参加する「千葉市・大学連絡会議」をこれまでに定期的に開催し、市の重点施策に関して市と大学の間での情報共有や意見交換を行ってきた。

 千葉市は、千葉大学、千葉工業大学、淑徳大学と包括的な連携協定を締結し、市と大学の定期的な協議を通じて、連携事業を実施している。また敬愛大学、東京情報大学とも地域経済活性化に関する連携協定を締結し、両大学も市の事業に参画してきた。

 複数の大学間の連携としては、すでに千葉県私立大学・短期大学協会に所属する大学・短期大学と放送大学との間で単位互換協定が締結されている。また千葉大学、神田外語大学、敬愛大学は「千葉圏域コンソーシアム単位互換協定」を締結し、取り組みを進めている。さらに植草学園短期大学、千葉経済大学短期大学部、千葉明徳短期大学の3短期大学は、千葉市と相互連携に関する協定を締結している。この協定は地域の子ども・子育て環境の向上を図ることを目的に、千葉市と3短期大学が相互に連携しながら、効果的な各種研修等を実施することで、優れた保育人材を育成することを目指す内容となっている。

 さらに学生の就職支援の一環として、千葉市、千葉市内の産業界、千葉大学、神田外語大学、敬愛大学、淑徳大学、東京情報大学の関係教職員の有志による「千葉キャリアコンソーシアム」が設けられ、定期的な情報共有、意見交換を行うとともに、産業界とも連携し、千葉市が実施してきた市内合同企業説明会を始めとするキャリア教育の取り組みを進めてきた。

 このように千葉市内では、事業単位においては、市と大学、または産学官連携、大学間連携の取り組みが行われているものの、学生募集、教育研究活動、就職支援、FD・SD、共同IR等の包括的かつ体系的な産学官連携体制は構築されていなかった。

 そこで、2017年3月から有志の大学により、包括的かつ体系的な産学官連携体制の構築について協議が始まり、2018年1月に「千葉市内大学間研究会」が立ち上げられた。

第1回目の「千葉市内大学間研究会」では、千葉市役所から講師を迎え、市の課題を共有するとともに、大学間で情報を共有するためのML(メーリングリスト)を作成することになった。次に同年2月には「教育の魅力化」の取り組みや地域づくりにおける高等教育機関の役割を検討する合同シンポジウム(FD/SD)を開催した。また同年3月には千葉市こども若者市役所の事業と連携して、「2020年東京オリンピック・パラリンピック」をテーマに、学生と市長との対話会を開催した。そして2018年5月に開催された第2回「千葉市内大学間研究会」において、産業界の意見・ニーズを聴取するとともに、産学官連携組織である「ちば産学官連携プラットフォーム」を2018年8月に設立することが合意された。

(3)千葉市内の高等教育機関の「強み」と「弱み」

 ここで千葉市内にキャンパスが所在する大学・短期大学、市原市にキャンパスが所在する帝京平成大学、習志野市にキャンパスが所在する千葉工業大学の計15大学・短期大学の有する学部学科、専攻に基づき、千葉市の高等教育の強みと弱みについて検討する 。(ここでは、千葉市・大学連絡会議」に参加する各大学・短期大学が有する学部・学科に基づき、分析する。)

 まず福祉、教育、医療、看護系の分野では、多くの大学がこれらの分野に係る学部学科、専攻を有しており、少子化、高齢化が進展する中で、有為な人材を輩出することができる基盤があることが確認できる。また、これらの学部学科、専攻の教育研究資源を活用していくことにより、今後の高齢化の進展の中で、千葉市が抱える医療や福祉等の課題に対し、有効な解決策を提案し、地域への貢献が可能であることがわかる。

 次に人文・社会科学系の分野では、経済・経営系の学部学科を、敬愛大学、千葉経済大学、千葉経済大学短期大学部が設置している。政治・政策、国際、語学、教養、文学、心理などの人文・社会科学系の学部学科については、千葉市内の各大学が学部学科を有していることがわかる。千葉市内の私立大学が連携を図ることで、人文・社会科学系の総合大学化を図ることができる点が「強み」である。一方、法学部を設置する私立大学・短期大学は無く、その点は「弱み」であると言える。

 そして情報・理工学系の分野では、情報系の学部学科を東京情報大学が設置しており、理工学系の学部学科を、千葉大学と習志野市に所在する千葉工業大学が設置している。この他の私立大学は理工学系の分野の学部学科を有しておらず、この点は「弱み」であると言える。

(4)千葉市の高等教育の課題-入学者の募集

 文部科学省中央教育審議会将来構想部会によれば、2040年時点の千葉県内の大学への入学者数の推計は国立(千葉大学)で2,218人、公立(千葉県立保健医療大学)で150名、私立で19,398人となっている。また入学定員充足率の推計では、国立(千葉大学)で85.4%、公立(千葉県立保健医療大学)で83.5%、私立では平均して83.3%と、東京都、埼玉県、神奈川県の他の南関東エリアの大学に比べても厳しい状況である。これは千葉市内の大学にとっても同様の状況であることが予測される。こうした背景から千葉市内の大学・短期大学の学生募集の環境は、今後厳しい状況に追い込まれることが予測される。

 また2040年の千葉市内の18歳人口は6,005人と予測されており、今後、千葉市内の大学・短期大学の学生募集の環境は厳しい状況に追い込まれていくことが予測される。そこで各大学・短期大学は募集力の強化を通じて、千葉市外の受験生に対して、積極的に働きかけていくことにより、千葉市内の大学・短期大学への入学を促進していくことが必要である。そのためには、千葉市内の高等教育の魅力を高めていくことが前提条件となる。

 入学者の確保のためには、「教育の質」の向上と「知名度」の向上が不可欠である。いわゆる大学のブランディングが必要となる。

 大学のブランディングを推進していくためには、産学官連携を通じて、各学部学科教育の「特色化」を進めるとともに、大学・短期大学間で相互に「相乗効果」を得られるように、教育研究資源を活用しながら、協働・共創を進めていくことが重要である。また、こうした活動の中で、連携のメリットを生かしつつ、各大学・短期大学がそれぞれ「強み」を伸ばし、他大学・短期大学との「差別化」を進めていくことが大切である。

 ただし、良い教育を行い、「教育の質」や「魅力」を高めたとしても、それが受験生に伝わらなければ、志願者を確保することには結びつかない。ここで、各大学の千葉県内及び1都4県の高校生に対する知名度の現状を確認する。(図5、図6)

 図5と図6では、リクルート社が実施した調査結果に基づき、千葉県内の高校生に対する知名度と1都4県(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、茨城県)の高校生に対する知名度を表している。また県内のベンチマークとして千葉商科大学と聖徳大学、全国のベンチマークとして日本大学の知名度を表すことにより、比較することもできるようにしている。比較の結果、千葉県内の高校生に対する知名度の向上も課題ではあるものの、1都4県の高校生に対する知名度が明らかに低いということがわかる。つまり、現時点では、知名度の点で言えば、千葉県以外から入学生を獲得することが難しい状況であることがわかる。

 また進学の動機付けのためには、まずは「どのような学部があるかを知っている」、「周囲の人からの評判が良い」という点が重要であり、知名度と学生募集とは当然ながら関係してくる。この点から、大学のブランド力の向上や積極的な情報発信が千葉市内の大学・短期大学にとっての課題であると言える。

図5.千葉市内の大学の知名度(千葉県内)

調査協力:株式会社リクルートマーケティングパートナーズ

図6. 千葉市内の大学の知名度(1都4県)

調査協力:株式会社リクルートマーケティングパートナーズ

(4)千葉市の高等教育の課題-就職

 次に、高等教育の課題として「就職」の観点から確認する。千葉市の課題は、20歳から24歳の年齢の者が25歳から29歳になる年齢になる世代の人口が減少することであった。これは千葉市内の大学・短期大学の学生が地元の企業への就職に結びついていないことが一因として考えられる。

 本分析を実施するにあたり、ちば産学官連携プラットフォームに参加する各大学・短期大学、千葉県立保健医療大学、東京情報大学から地元就職率に関するアンケートの回答を得たところ、千葉県内就職率が43.57%、千葉市内就職率が15.3%という結果が明らかになった。

 千葉市内の企業、事業所等の求人状況をヒアリングすると、産業界からは「人手不足」であるという意見が寄せられ、「仕事」が無いわけではないのが実態である。市内の企業・事業所等への就職率の低さの要因としては、学生が地元企業の情報を知らないということが挙げられる。つまり、学生と地元企業との間の「ミスマッチ」が問題であるといえる。そこで大学・短期大学と産業界との連携により、地元企業や事業所の情報を提供し、学生が興味・関心を持つことを促していくことが千葉市内就職率を高めるための大きな課題となる。また新産業の創出や事業承継なども、大学・短期大学、市、産業界との連携を通じて取り組んでいくことが必要である。

図7.千葉市内大学(含帝京平成大学、除千葉大学)の地元就職率

出所:ちば産学官連携プラットフォーム