「高等教育のグランドデザイン」審議まとめ

ちば産学官連携プラットフォーム「⾼等教育のグランドデザイン」2024年度審議中間とりまとめ

ちば産学官連携プラットフォームでは、プラットフォーム参画校による2025年までの『前期中⻑期計画』(グランドデザイン)を、2018年に策定しました。これは⽂部科学省中央教育審議会⼤学分科会将来構想部会における議論(後に、中央教育審議会答申『2040年に向けた⾼等教育のグランドデザイン』)の経過を踏まえながら策定されたものであり、ちば産学官連携プラットフォームの参画校が所在する千葉市を中⼼とした地域における⾼等教育のグランドデザインを⼤胆に描き、地域における⾼等教育機関の役割を再確認するとともに、参画校の強みと弱み、千葉市地域の課題を整理し、共通認識とすることを⽬指しました。また、この『前期中⻑期計画』を、産学官連携を通じたプラットフォームの事業計画の「⼟台」としながら、2018年度以降の具体的な取り組みが実施されてきました。

このことから、本プラットフォームでは、『中⻑期計画』を、「⾼等教育のグランドデザイン」答申を踏まえた高等教育改革の活動の「軸」と位置付け、定期的に点検・評価・検証・改善を進めています。

ちば産学官連携プラットフォームでは、特に千葉県内の18歳人口の動向を捉えながら、グランドデザイン答申に基づく、地域連携プラットフォームの在り方について継続的に検討を進めるとともに、下記のFD/SD研修会や運営委員会において定期的に議論してきました。本審議まとめでは、その議論について公表いたします。

(検討過程)

2021年9⽉:FD/SD研修会

2021年10月:ちば産学官連携プラットフォーム運営員会

2021年10月:2021年度審議中間とりまとめ

2022年2月:ちば産学官連携プラットフォーム運営員会

2022年9月:FD/SD研修会

2022年9月:ちば産学官連携プラットフォーム運営員会

2022年9月:2022年度審議中間とりまとめ

2023年9月:FD/SD研修会

2023年9月:ちば産学官連携プラットフォーム運営員会

2023年9月:2023年度審議中間とりまとめ

2024年9月: FD/SD研修会

2024年9月:2024年度審議中間とりまとめ

1.2024年度FD/SD研修
テーマ:「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン答申後の高等教育改革の状況と課題」

淑徳大学
「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン答申後における教学マネジメントと質保証を考える」

(1).教学マネジメントの背景

高等教育における「教学マネジメント」とは、大学が教育目的を達成するために行う管理や運営のことを指します。この教学マネジメントは、大学が自主的に教育の質を保証するための重要な活動であり、内部質保証と密接に関連しています。内部質保証と教学マネジメントは類似する概念で対象範囲が(「教育目的の達成」「教育研究活動等の改善」)が異なりますが、どちらも教育の質を向上させるための基盤となっています。

(2) .教学マネジメントの構造

「教学マネジメント指針」では、大学が三つの方針に基づいて教育を組織的かつ体系的に運営することが求められています。これらの三つの方針は、以下の通りです。

ディプロマ・ポリシー(学位授与方針)
大学がどのような知識や能力を持つ学生に学位を授与するか、その基準や条件を定めるものです。

カリキュラム・ポリシー(教育課程方針)
学位を取得するために必要な教育課程や教育方法を設計し、どのように教育を提供するかを示す方針です。

③アセスメント・ポリシー(評価方針)
学生が修得した学習成果をどのように評価し、その評価結果をどのように教育改善に活用するかを定めるものです。

これらの方針に基づいて、大学は教育活動を展開し、学位プログラムごとに点検・評価を行い、教育改善に取り組むことが求められています。


3. 教学マネジメントの課題

教学マネジメントが分かりにくい理由として、大学の設置形態や文化、組織の風土、そして大学の規模が考えらます。例えば、国立大学、公立大学、私立大学のそれぞれで、運営方法や教学マネジメントの適用の仕方が異なります。また、トップダウン型の大学では、執行部の意思が強く反映される一方で、ボトムアップ型の大学では教員の自主性が重視されるなど、組織文化の違いが教学マネジメントの実行を難しくしている場合があります。


4. 教学マネジメント2.0

昨今の教学マネジメントでは「教学マネジメント2.0」というキーワードがあります。これは、従来の課題を克服し、教育現場における実質的な変革を目指す新しいアプローチです。このアプローチでは、学部を主体として、現場主導で教育改革を進めることが重要視されています。特に、以下の三つの要点が強調されています。


学部主導の教学改革
教学マネジメント2.0では、学部が自らの教育プログラムを主体的に改革し、教育改善に取り組むことが求められています。執行部は、学部の取り組みを支援し、変革志向の組織文化を醸成する役割を担います。


多様な創造性の推進
教学マネジメント2.0は、画一的な指導方針に従うだけでなく、各大学や学部が持つ独自の特色を活かし、創造的な教育改善を推進することを目指しています。これにより、より柔軟で実効性のある改革が期待されています。


③学生の参画
学生が教育改善のプロセスに積極的に関与し、学習成果の可視化や教育プログラムの改善に貢献することが求められています。学生の声を取り入れることで、教育現場のリアルなニーズが反映され、より実質的な改革が可能となります。


5. 教学マネジメントにおける学生参画の重要性

学生参画は、教学マネジメント2.0において重要な要素です。学生は、単に教育を受ける立場にとどまらず、教育の改善プロセスに積極的に関与することが求められています。特に、学位授与方針(ディプロマ・ポリシー)や学修成果の可視化に関する意識を高めることで、学生自身が学習の質を高め、教育改革に貢献できるとされています。

帝京平成大学
IR情報を活用した「セミナー科目」改革の取り組み

1.取り組みの背景

本学における就職支援の取り組みを検証するため、大量に蓄積されていたキャリアカウンセリングの面談記録をテキストマイニングの手法を用いて分析を行った結果、就職活動において重要な「自己PR」や「学生時代に力を注いだこと」について、自らの言葉で説明できない傾向にあることが分かりました。そのため、本学独自の科目である「セミナー科目」を活用して、それぞれの教育課程を通して身に付けるべき力を明確にし、その力がどの程度身に付いたのかを学生自身の言葉で説明できるよう取り組むこととしました。

2.取り組み内容 ①

本学では、建学の精神および教育目標を踏まえ、本学学生が身に付けるべき「目標とする6つの力」と「それぞれを構成する25の具体的な力」を定めております(下図参照)。

この「目標とする力」を学修成果を評価するための総合的な指標とし、就職活動をはじめとする様々な場面で学生自身が自らの言葉で説明できることを目指しています。

3.取り組み内容 ②

この取り組みには、本学独自の科目である「セミナー科目」を活用します。「セミナー科目」を活用する理由として、3点挙げられます。まず1点目は、本科目を建学の精神に基づく重要科目と位置付けていること。2点目は、全学科全学年に配置されていること。3点目は、少人数によるクラスで編成されているため、担当教員は学生が主体的に学び、その能力を伸長できるよう、一人ひとりの個性・適性を考慮しつつ指導が行えることです。

4.取り組み内容 ③

本改革を推進していくにあたり、学科・コースごとに「目標とする力」を設定しております。設定する「目標とする力」については、「25の具体的な力」全てを網羅する必要はなく、学科・コースの特色を出すために、「目標とする力」をある程度絞って選定しております。また、選定した「目標とする力」をどのように身に付けてもらうのか、そして、どのように評価するのかについても学科・コースごとに策定しております。評価方法としては、学期の期首と期末に、学生に自己評価をしてもらう方法や各学科・コースで作成されたルーブリックに沿った評価が主となっています。今後については、e-ポートフォリオを積極的に活用し、全学的にデータとして蓄積、可視化ができるよう目指しております。そのために、今年度より運用を開始しているIRシステムを用い、全学でどの程度e-ポートフォリオが活用されているのか、現状の把握をしました。また、毎年度実施している全学生を対象とした調査において、「目標とする力」がどの程度身に付いたのか把握するための設問を新設する方針です。

5.取り組みの進捗

本取り組みは2022年度より着手しており、2023年度より人文社会学部、2024年度より薬学部・ヒューマンケア学部において、セミナー改革の内容を反映した授業を実施しております。2025年度から健康メディカル学部・健康医療スポーツ学部において本取り組みを展開する予定であり、現在準備を進めております。両学部への展開をもって、全学への展開がなされます。

2.検討過程で出された意見

(千葉市)

・2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)では、18歳人口の減少による社会人や留学生など多様な学生の受け入れ拡大が示されている。

・千葉市では、今後、日本人人口減少とともに外国人人口が増加していく想定である。

・高等教育機関での留学生の受け入れを増やしていく中で、留学生との交流や留学生の力をお借りするなど、自治体と高等教育機関との連携が重要になると考えている。産業界とも連携しながら相互に協力ができればと考えている。

・社会人向けには、リスキリングやリカレント教育が想定される。千葉市でも過去にリカレント動画作成を実施したが、プラットフォーム内でもリカレント教育事業を継続して実施いただいており、千葉市民へのセカンドキャリア教育の一端を担っていただいていると承知している。

・本市の生涯学習センターでは、リカレント教育やリスキリングなどの情報を発信しているため、大学等と連携した情報発信について市としても協力していきたい。

・リスキリングは産業界の協力が必須だと考えているので、お互いに連携を図りたい。

(千葉商工会議所)

・現在、原油高、物価高等、海外情勢の不安定化等、事業者を取り巻く環境が激しいものとなっている。一方でAI技術の革新も急速に進展する中で、これまでの既存の事業やビジネスモデルが通用しなくなってきている。

・事業者には事業転換や自己変革が求められており、そのための人材育成、人手不足解消のための生産性の向上、デジタル人材の育成等を踏まえて、リカレント教育やリスキリングが注目を浴びている。

・地域の事業者や働く方々が利用しやすいような、実践的・専門的なプログラムの開発を大学にしてもらえると産業界としてもありがたい。商工会議所にできるようなことがあれば一緒に取り組んでいきたい。

(プラットフォーム参画大学)

・人口減少と外国人の増加について、千葉市内の大学では外国人留学生の受け入れはある程度飽和状態であるように感じている。適正な人数の受け入れが大事になっていて、学納金の収受が適正にできるか等の課題も考えなければならない。例えば留学生向けの日本語教育の部分であれば、いくつかの大学で協力してできるのではないかという印象がある。

・リスキリングについて、求められている幅が広く浅くなっている印象がある。地域の事業者や住民が大学のリスキリング講座を受講しやすい環境に加えて、事業者側がそのような講座に従業員等を出しやすい環境作りも必要であり、両方の環境整備が必要であると感じている。

・外国人留学生や外国籍の住民については、神田外語大学の共同研究「千葉市における外国ルーツの学生の生活意識および教育問題に関する研究」でも扱っているので、その成果とも連動させられたらと思っている。

・高校生と関わりの中で、各々情報リテラシーにレベルの差があることが分かり、学生間のばらつきを正確に把握する必要があると感じている。このように様々な学生が同時にいる環境での情報教育もきめ細やかにやる必要がある。

・新たにできた公共の授業で、自分の地域の産業や文化を取り上げている高校が多い印象がある。入ってくる新入生が高校でどんな教育を受けているかを丁寧に見る必要がある。

・プラットフォームの共同研究で外国にルーツを持つ学生達の調査を始めているが、千葉市、千葉県も外国人が増加しており、多文化共生の重要性を実感している。プラットフォームでは学生のボランティア等で、そのような学生達を優しい日本語で支援できる体制が将来的にできればと感じている。

・リカレントやリスキリングの講座の受講者は、実際には地域の高齢者が中心で、ニーズと現状が合わない課題がある。必要とする方がどんなものをリスキリングしたいと思っているのか、すり合わせができると皆が学びたいものに近づけるのではないかと考えている。

・デジタル人材WGでは千葉市とも連携して進める中で、現在eスポーツを活用した取り組みを検討している。eスポーツによってスキーム教育をどう展開していくか、高齢者と結びつく中で地域の活性化ができないか現在も検討中である。

以上

過去の審議まとめ

2023年度 ちば産学官連携プラットフォーム「高等教育のグランドデザイン」審議まとめ

2022年度 ちば産学官連携プラットフォーム「高等教育のグランドデザイン」審議まとめ

2021年度 ちば産学官連携プラットフォーム「高等教育のグランドデザイン」審議まとめ